どんな君でも愛してる
 だから、男性に触れられることに慣れているわけじゃないのに、黒髪の男性からにはそう見えたのかと思うと、気分が沈んだ。

 そして思わず、自分の腹にある20センチはあるメスで切られて縫われた傷を撫でていた。

ーお前、傷物なのに偉そうにするな!可哀想だから相手してやったんだ。ー

 昔、男性に言われた言葉を、何故か思いだし涙汲んでしまい、慌てて目を擦り、準備された服に手を通した。

 ガチャっと扉を開ければ、ふわっとバターと紅茶のいい香りが鼻を擽ると同時に、黒髪の男性が振り返り、優しく微笑む。

「座ったら?お嬢さん。」

「……瑠璃です。相嶋瑠璃です。私、昨日の記憶がなくて。どうしてここに?」

 黒髪の男性は、瑠璃を椅子に座るように促し、"食べながら話そう"と、瑠璃の前にクロワッサンのロールパンを置き、ビュッフェ風に机の上に並べられたハムと卵・野菜サラダを皿に盛り付けてくれる。

「仕事が終わりbarに寄ったら、閉店したbarに君が酔っても寝てて、安東が困ってたから、借りてる俺の部屋に連れてきたんだよ。」

 そう説明され納得した。

 安東に自分の住まいについては話してないし、履歴書を出した際はまだ住まいが決まっておらず、今日、八木からbarの下にある部屋の鍵を貰ったばかりで、部屋の確認もしていなかったのだから、確かに安東が困るのもわかる。
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