誰かのための物語
そんなことを繰り返していると、相手の息遣いもだんだん荒くなってくる。

僕は後半出場ということもあるが、身体の軸がぶれないように意識していたのでまだまだ元気だった。


また、長いパスが来た。

マークしている選手もその着地点を目指して走るが、今までのようなスピードがない。


ーーこれなら、取れる!


僕は走りながら、グラウンドの中央を見て、周りのスペースが空いていることを確認した。


そして、ボールの着地点に相手よりも先に入り、そのパスを胸で止めた。


まだ走れる。
僕はそう思い、大きくボールを蹴った。

それで、僕をマークしていた選手は意表を突かれる。

身体を反転させる時間が必要な分、今度も僕のほうが早くそのボールに追いついた。


ボールを持ったあとのイメージは、短いパスでつなぐことだ。


自分のチームには相手のような瞬足の選手はいないが、パス回しはとてもうまい。


その歯車に、僕は入る。


相良にアドバイスされて、試合を観察するようになってから、パスをするときに大事なのは出すタイミングだとわかった。


相手に距離を詰められる前に、パスの受け手がディフェンダーに阻まれる前に。


思い切って、パスを出して次のフォローに回る。

パスをとにかくつなげ続けるんだ。


これが自分のやるべきことだと思った。
そんな意識の中で、僕は走り続けた。


するといつの間にか、全体的にラインが上昇し、相手陣地内に深く入り込んでいた。


そこでも、こちらのチームの早いパス回しが続く。

相良も、相手のゴールを狙うタイミングをうかがっていた。


 
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