誰かのための物語
そのとき、相手の足がボールをはじいた。

僕は、その軌道を見て走り出した。

相手陣地、右奥のスペースでのことだ。

相手チームは一斉に攻撃に転じようと、こちらへ
向かってくる。


いつもであれば、その瞬間に僕は自陣に戻り相手をマークしていただろう。


 
しかし、僕が向かった方向は、相手ゴールだった。

それも、全力で。

もう三十メートルもない。


すると視界の右端から、すっと、パスが出された。


ちょうどいい場所と、強さ。

顔を上げると、キーパーは右側に寄っている。


僕は走りながらタイミングをつかみ、右足を思い切り、振り抜いた。


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