誰かのための物語
「おおいかん、そういえば今日は、父さんと母さんの月命日だったな。

拝んでから食べよう」


じいちゃんはそう言うと、仏壇の前に座った。


僕も、その隣に座る。

仏壇には、笑顔の両親の写真が仲よく並んでいる。

じいちゃんは線香を供え、おりんを静かに三回鳴らした。

その音色以外は、静かだった。

静寂の中、僕らは並んで手を合わせた。


じいちゃんはいつも、父さんと母さんのことを明るく語った。

『本当に、いい子たちだった』と。


でもそれは、僕に気を遣っているからではない。

直接そう言われたことはなかったけれど、僕はそう感じていた。


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