誰かのための物語

3

そんなことを今一度思い返したばかりだったからだろうか。


不吉な予感がした。

僕の気持ちが今日の天気とは対照的に淀み始めている。


ーー森下さんが来ない。


約束の時間の十分前から、僕は公園で森下さんを待っていた。

でも、いくら待っても彼女が来る気配はない。

彼女が約束を忘れているという考えは浮かばなかった。

彼女は、そんなことをしない。

なにか事情があるはず。


それとも、彼女の身になにかーー。


僕は彼女と連絡先を交換していなかった自分を憎んだ。

さっき、じいちゃんのような生き方をしようと思ったばかりだったのに、こんな後悔を抱えることになるなんて。


連絡先を知りたいと思ったことすらなかった。


必要性を感じていなかったのだ。

あの物語が僕らをつないでさえいてくれれば、それでよかった。


僕は、思わず最悪の事態を想像した。


これがもし、彼女との一生の別れだったとしたら?


間違いなく僕は後悔すること
になるだろう。

なにを後悔するのかって? そんなことは決まってる。

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