誰かのための物語
ーーその瞬間、僕は立ち上がった。



思い出した。

そのとき、彼女が言ったこと。


かおるくんは、自分の甥っ子だと。


ゆいこさんは自分の姉だと。


僕は彼らの家なら知っている。


ふたりなら、なにかを知っているかもしれない。


なにがあったのかはわからない。


でも、両親がいきなりいなくなったことと重なり不安が増幅され、僕は走り出していた。


 合宿のせいか、走ると筋肉痛がした。


でも、胸のほうが痛かった。

森下さん。

華乃さん。

華乃。

かの。



激しい動悸。

期待と不安が渦巻いている。


走りながら僕は、心の中で何度も、彼女の名を叫んでいた。
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