誰かのための物語
「華乃ちゃんが今どこにいるかは、かおるくんわかる?」

「かのちゃんにいわないでっていわれたの。

たつき兄ちゃん、じぶんでわかるからって」


……自分でわかる?

それはどういう意味だろう。


でも、その言葉から森下さんがひとまず無事でいてくれているとわかり、僕は長く息を吐いた。


ずっとため込まれていた不安や焦りを吐き出すように。


「あと、なにか言ってたことはあった?」


かおるくんはもう一度うーんと考えてから、あ、と小さく漏らした。


「のーとをわたしてあげてっていってた」


「ノート?」


「もってくるからまってて!」


 ノート。

それはきっとあの物語のものだろう。

自分は渡すことができないから、かおるくんに預けたのだろうか。


 
そう想像して、かおるくんを待った。その間ゆいこさんは僕に麦茶を飲むよう促した。


一口飲むと、からからだった喉が潤された。


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