誰かのための物語
昨日かおるくんからノートを預かり、今朝見た夢で記憶を取り戻してから、僕の中ではたくさんの思いが渦巻いていた。


記憶がなかった頃の僕は、いなくなっていたわけではない。


ダムみたいなものに、せき止められていただけなんだ。そのダムが決壊した今、僕の中では洪水が巻き起こっていた。


電車を降りて向かったのは、ある病院だ。


彼女はきっと、そこにいる。


夏休み前、彼女が持っていたビニール袋。あの中身は風邪薬なんかじゃない。


なんで、あれを見ても思い出せなかったんだ。


病院に着いて、受付で彼女の病室を教えてもらった。

エレベーターで上がっている間、妙に心臓の鼓動が大きく聞こえた。


気が付けば、そこはもう病室の目の前だった。深呼吸をひとつして、僕はノックをする。

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