誰かのための物語
彼女は上体を倒してずいと僕に顔を近づけた。

昔もこういうことがあった気がする。


なんだか僕たちは会えなかった時間を埋めるために、昔に戻っているみたいだった。


「じゃあ、二回目の約束は?

合宿、どうだった?」


僕が一呼吸おいて、華乃の目を見てゆっくり頷くと、彼女はまた、背筋を伸ばす。


「試合で初めてシュートを決めたんだ」

「すごい!」

彼女は胸の前で手を握って喜んでくれた。

「相良が僕の力になってくれたんだ。
もう大丈夫だよ。方向性が見えた気がするんだ」


相良のことを華乃に話した覚えはないけど、とにかくいろいろなことを伝えたくて思ったことがそのまま口をついて出てしまった。


「そっか。

本当によかったね。

あ、あと怪我はしてない?」

「うん、大丈夫」


 よかったと笑う彼女を見ながら、どうしよう、と思った。

……話したいことが、

伝えたいことが、

ありすぎる。


僕は、目の前に華乃がいることに、この上ない幸せを感じていた。


こういう気持ちは、伝えなきゃ。


ほら、イメージしただろう。


こういうときは、

素直に言うって決めてただろうーー。


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