誰かのための物語
男の子は立ち上がり、女の子の目の前へと進みました。

そして、小指を立てて手をさし出します。

すると女の子はちょっとこまった顔をして、
「やくそくしても、わたしのことを忘れちゃうのよ?」と言い、

それから、

笑顔で、

小指をそれにからませました。



ゆびきり、げんまん。






そのときでした。


まどのすき間からたくさんの桜の花びらが風にのって入りこみ、ふたりを包みました。


ふたりは指をつないだまま、笑顔で見つめあっています。



「またね」


ふたりの声が、かさなりました。


お互いの姿がたくさんの花びらで一瞬見えなくなったと思うと、そこにはもうふたりはいませんでした。



男の子は、目を覚ましました。

そして、女の子も。



ふたりは、見ていた夢のことはなにもかも忘れていました。


でも、たしかにふたりは同じ世界に生きています。



そして……。




ふたりは、出会うことになります。



桜が咲きほこる季節に、あの教室で─。
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