誰かのための物語
また病状がよくなり始めたのは、その数カ月後だった。


しばらく気胸も感染症も起こらず、安定して過ごせるようになっていた私は、


「お父さんのいるところに行きたいな」と口にした。


 お母さんは反対すると思っていたけれど、予想に反して同意してくれた。


さらに、
「私たちもあっちに引っ越しちゃおうか?」なんて言ったのだ。

冗談で言っているのかと思ったけどそうではなかった。


お母さんは、目を輝かせて旅行を楽しんでいた私の
姿が忘れられなかったのだそうだ。



あの町は静かで、でも活力に満ちていた。

古い町並みも残り、伝統工芸や日本古来の食文化も継承されている。


私も、楽しかった記憶しかない。


そんな町で暮らせると思うと、ワクワクした。


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