誰かのための物語
「これは、絵本?」
 私は、彼の隣に座り、知らないふりをして尋ねる。


「うん。でも、僕が描いてるのは絵だけなんだ。
物語は、誰かが書いてる」


 ふーん、と私は答えた。


「誰が書いてるかわからないの?」


「そうなんだ。でも、この物語はすごく好きだよ。


書いてる人はきっと自然や動物、それに物語そのものが大好きな人なんだと思う。


あと、すごく優しい人だ。

争いを好まず、人から攻撃されたとしても決して反撃したりしない。

相手のことを思いやれる人だと思うんだ」



彼は、物語を書いているのが私だと気付いているはずだけど、あくまでも気付いてないふりをするようだ。


やっぱり彼は、人を騙したり嫌がらせに便乗する才能がないのだと思う。


これには私も照れてしまった。そんな風に思ってもらえていたなんて。恥ずかしくて、でもとても嬉しい。

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