誰かのための物語
私たちは、残された時間を惜しむようにできるだけ一緒にいて、たくさん話をした。



そんな中で彼が絵本が好きだということを知ったときは、嬉しくてわくわくした。


私は、彼が小さい頃からどんな絵本を読んできたのか、知りたくてしょうがなかった。

立樹くんが、どうして今の立樹くんのように素敵な人になったのか。

そのヒントが、そこに隠れている気がしたから。


特に印象に残っているのは、彼のお気に入りの絵本の話。

幼い頃の彼は〝絵本を使って家族と交流するプロ〞
だと、話を聞いて思った。



「今はさすがにもうやらないけど。きっと僕は甘え上手だったんだと思う」


絵本のタイトルを聞いたけど、読んだことがないものだった。


とにかく早く読みたくて、書店に急いだ。


そのせいで咳がしばらく止まらなくなったのを覚えている。


帰って、布団の中で彼が好きだと言った場面の絵をじっと眺めていた。


彼が、私のために穴を作って入れてくれるところを想像したら、急に恥ずかしくなって布団をかぶった。


『きみといっしょにいられるだけで』は、

それ以来、私にとってもお気に入りの一冊になった。



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