誰かのための物語
先生には、
『クラスメイトには転校のことを当日まで言わないでください』と頼んだ。

必要以上に波風を立てたくなかったから。


その日は、あっという間に訪れた。

立樹くんと過ごした時間が加速装置になったみたいに、その間の時間もビュンビュン過ぎていった。

彼がいなかったら、まだ私は一週間前くらいにいたのかもしれない。


クラスメイトは、特に驚いてはいなかった。


ああ、やっと目障りなのがいなくなる、という感じだろう。

彼らのまったく関心がないような目を見たとき、この人たちはこれからも新しい誰かを標的にしていじめをするのだろうか、

とそんなことを思った。


誰かをいじめることでしか弱い自分を守れないのは、すごく悲しいことだと思った。


私の病気なんかよりも、ずっと。


その病気のような心は、誰が治せるんだろう。


みんなが、立樹くんのようだったらいいのに、と心の底から思う。


せめて次の転校先にいる人たちが、その病気にかかってないといいな。


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