誰かのための物語

イルカの絵を描き終える頃には、もう六月になろうとしていた。
 
通学中の電車の中で、塾の夏期講習の広告を見てそのことに気付いた。
今までそういう情報は気にならなかったのに、受験生になってからは嫌というほど目に入る。
 
森下さんの絵本の絵を描き始めてから、もう一カ月が経つ。
僕は森下さんと約束したとおり、きっちり一週間に一回のペースで絵を描いていた。
 
森下さんが転入した日から見るようになったあのリアルな夢は、その後も決まって 彼女の物語の絵を描き終えたときに見るようになっていた。
 
毎回、僕は図書室に向かい、奥の棚からノートを取り出し、その中に絵を描いている。
どうしてもその絵だけは見えない。ほかの景色ははっきりとしているのに。
 
そして、チャイムが鳴ると絵をもとの場所に戻し、早足で図書室を出ていく。
 


なぜこの夢を見るのか、僕にもまだわからないままだ。
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