誰かのための物語
遠山監督の言葉を聞いて、僕は勘違いをしていたことに気が付いた。


それは、『誰かのためにがんばるということは、その誰かのためにしかならない』 ということ。
 

でも、それは違う。

誰かのためにがんばることは、自分のためにもなるんだ。


いや、自分のために、誰かのためにがんばると言ってもいい。
 
僕は今、森下さんのために絵を描いている。


でも、それによって僕は誰かに必要とされる自分でいることができるし、

僕自身もいろんなことを学んでいる。

現にこうやって、大切なことに気付くことができている。
 


あのイルカは、飼育員さんのためにがんばることで自分の生き方を見つけた。
 

たとえ自分にそんなつもりがなくても、誰かのためにがんばることは、結果として 自分のためにもなっていんだ。
 
さっき僕は、『仲間のため、チームのため』にがんばろうと心に決めた。


その気持ちは変わらない。


でも今は、『自分のために、仲間のため、チームのため』にがんばろうと考えている。
 



仲間の中には監督も含まれている。

僕らのために努力を惜しまない彼は、僕らと喜びを共有したいと思っている。


その思いに応えたい。彼の夢が叶ったら、僕も嬉しい。
 


だから、がんばることは僕のためにもなるんだ。
 



僕は練習を再開した。

今までは目の前のゴールしか見えていなかったけど、今度はもっと別なものが見えた。


ここが試合会場であることが想像される。


なんだか、視野が広くなったような気がした。
 



グラウンドは、全国大会予選の決勝の舞台に、ジャージはユニフォームに見えた。


周りには、たくさんの仲間がいる。
 
自分のために、彼らのために。


この一本のシュートは大切なプレーなんだと思いながら、僕はいつもより長く、ぎりぎりまで練習を続けた。


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