誰かのための物語

その日の部活で、僕はグラウンドの隅のスペースで新入部員の練習を見ていた。右手の怪我のため、二、三年生の練習には参加できないのだ。

僕が所属するサッカー部はレギュラーがＡチーム、そのほかはＢチームという扱いだった。万年補欠の僕は、Ａチームでの練習なんて、怪我をしていなくてもそもそもできないのだけど。

中学生のときは美術部で絵ばかり描いてきた僕は、運動うんどう音痴おんちで足も遅い。ただ、長く走り続けることだけは得意だったのだが、それだけでレギュラーになれるほど、高校の部活は甘くない。

そもそも高校からサッカーを始めた人はほんの数人しかいないし、その中でも文化部出身は僕だけだった。