誰かのための物語
「それだったらいいんだけど……」

彼女の目線は下がったままだ。まだ心配そうなので、僕はもうひとつ付け加えた。

「うん、いいんだ。
それにね、僕のなくなっている記憶の中には、すごく大切な友達がいるはず。
その子のこと、思い出したいんだよね」


「もしかして、あの夢で?」


彼女は少し遠慮がちに、そう言った。


「うん、そう。昨日の夜、夢の中にある女の子が出てきたんだ」

「ねえ、それってどんな人?」


食い気味に、少しだけ座る距離を縮めながら彼女が言った。


「そ、それだったらさ、公園で話すよ。

今日、最後に行く予定だったよね」


僕がなだめるように言うと、彼女は少し残念そうにしながらも、

「わかった。楽しみにしてるね」と言った。


「じゃあ、行こうか」

 僕らは、美術館の奥へと進んでいった。
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