誰かのための物語
僕がこの怪我を負ったのは、春休み中に行った練習試合でのことだ。そのとき僕は交代とはいえ試合に出られたことが嬉しくて、舞い上がっていたのかもしれない。
自チームのチャンスの場面でドリブルをする仲間がスライディングタックルを受けそうになったときだった。僕はとっさに、仲間と相手との間に身体を割り入れた。当然、相手選手とぶつかり、僕は前方にものすごい勢いで倒れ込んだ。そのときに右手をつき、骨折してしまったのだ。
健闘むなしく、結局ボールは相手ゴールまで運ばれることはなかった。しかも、あとから考えてみれば、僕の妨害ぼうがいがなければファールをもらうことができたかもしれないのだ。そうすれば、PKで点を入れられたかもしれない。そんな感じで、僕のプレーの選択は的外れであることが多かった。はなからセンスがないのだろう。
「次は、五人でチームを作ってミニゲームをするよ」
僕がパス練習をする一年生に向けてそう言うと、はい!と一年生は返事をして素早く移動する。入部して一週間足らずだけど、彼らはやる気に満ちていた。
その姿に、二年前の自分を重ねる。春の大会で先輩たちが強豪きょうごうチームに対しても臆おくせずに最後まで全力で立ち向かう姿に感銘かんめいを受け、その姿に少しでも近づきたくて練習に励んだものだった。
「よし、もう一本いくぞぉ!」
グラウンド中央から二、三年生が練習する声が聞こえる。彼らは、激しく競り合いながら攻守に分かれて練習をしていた。
グラウンド隅でぽつんと立ち一年生の練習を見ている僕にとって、その声は実際よりも遠くに聞こえる。
昨年の秋に行われた全国大会の予選で、僕らのチームは準優勝だった。もう、十年以上、同じ高校が優勝し続けている。今年こそは。みんな、同じ思いを抱えて練習していた。
ぼんやりと、練習している部員を眺める。
ひとつのボールを奪い合い、十一人の力を結集して相手ゴールに届ける。それだけ言うとサッカーは単純なスポーツだ。でも、単純な僕らはこのスポーツに熱中していた。早く、あそこに戻りたい。
「用意できました!」
勢いのある一年生の声で、僕は我に返った。
「よし、じゃあ始めるよ」
一年生の指導だって、チームの今後のための大事な仕事だ。そう自分に言い聞かせて、僕はそれに集中する。
自チームのチャンスの場面でドリブルをする仲間がスライディングタックルを受けそうになったときだった。僕はとっさに、仲間と相手との間に身体を割り入れた。当然、相手選手とぶつかり、僕は前方にものすごい勢いで倒れ込んだ。そのときに右手をつき、骨折してしまったのだ。
健闘むなしく、結局ボールは相手ゴールまで運ばれることはなかった。しかも、あとから考えてみれば、僕の妨害ぼうがいがなければファールをもらうことができたかもしれないのだ。そうすれば、PKで点を入れられたかもしれない。そんな感じで、僕のプレーの選択は的外れであることが多かった。はなからセンスがないのだろう。
「次は、五人でチームを作ってミニゲームをするよ」
僕がパス練習をする一年生に向けてそう言うと、はい!と一年生は返事をして素早く移動する。入部して一週間足らずだけど、彼らはやる気に満ちていた。
その姿に、二年前の自分を重ねる。春の大会で先輩たちが強豪きょうごうチームに対しても臆おくせずに最後まで全力で立ち向かう姿に感銘かんめいを受け、その姿に少しでも近づきたくて練習に励んだものだった。
「よし、もう一本いくぞぉ!」
グラウンド中央から二、三年生が練習する声が聞こえる。彼らは、激しく競り合いながら攻守に分かれて練習をしていた。
グラウンド隅でぽつんと立ち一年生の練習を見ている僕にとって、その声は実際よりも遠くに聞こえる。
昨年の秋に行われた全国大会の予選で、僕らのチームは準優勝だった。もう、十年以上、同じ高校が優勝し続けている。今年こそは。みんな、同じ思いを抱えて練習していた。
ぼんやりと、練習している部員を眺める。
ひとつのボールを奪い合い、十一人の力を結集して相手ゴールに届ける。それだけ言うとサッカーは単純なスポーツだ。でも、単純な僕らはこのスポーツに熱中していた。早く、あそこに戻りたい。
「用意できました!」
勢いのある一年生の声で、僕は我に返った。
「よし、じゃあ始めるよ」
一年生の指導だって、チームの今後のための大事な仕事だ。そう自分に言い聞かせて、僕はそれに集中する。