誰かのための物語
僕は頷き、続けた。

「父さんに、ここで肩車をしてもらっていたと思う」


そのときの目線は、もう少し上だったはずと思い、僕は背伸びをした。

小さい頃の記憶と重なる部分はところどころにあるが、今と昔では見え方が違う。


小さかっただけでは気付けなかったことも、成長するうちに知っていく。


例えば、この広大な庭園を手入れする庭師さんの努力と技術が素晴らしいものだってこと。

自然の力だけではなく、人の力も合わさってこの美しさが作られているんだってこと。


下から視線を感じ、そちらを見ると森下さんと目が合った。

彼女は澄んだ瞳でこちらを見ていた。


そして神妙な口調で僕に尋ねる。



「なにか、思い出すことはあった?」
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