誰かのための物語
彼女が口にしたその絵本のタイトルには、聞き覚えがあった。


首に緑色のリボンを巻いた、青色の目をしたおもちゃのうさぎが思い浮かぶ。


「……きっとそれだ。森下さんも読んでいたんだね」


「うん。小学校の頃、大切な友達に教えてもらって、本屋に走って買いに行った思い出の絵本なんだ。


それを読んでからね、持っていたくまのぬいぐるみをそれまで以上に心から大切に思って、常に一緒にいるようになった。


そうすれば、いつかこのくまも本当のくまに
なれるんだって信じてね」


「子どもらしいね。

そうやって絵本の真似する森下さんだって、すごく素直だと思うよ」


 僕は少し冗談めかして言った。

森下さんは僕のことを素直だなんて言ってたけど、
君のほうがずっと素直だって。


そう言うと彼女は「ふふっ」と笑った。


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