誰かのための物語
ーーそうなのかもしれない。


森下さんといるとき、僕は両親のことをありありと思い描くことができた。


 彼女と出会うまでの僕は、ふたりのことを思い出さないようにしていた。

ひとりで両親との思い出を浮かべると、自分の寂しさが際立つから。


でも、なぜ今は、こんなにも幸せな気持ちなんだろう。





ーーああ、そうか。


 今は、ひとりじゃない。


僕の思い出を、共有してくれる人がいる。だから安心して思い出せるんだ。



「日比野くんだって、ほっぺたすごい上がってるよ」

「えっ」


 とっさに口元に手をやる。


僕らは、同じポーズで顔を見合わせて、
もう一度笑った。
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