誰かのための物語
「日比野さ、サッカー好き?」

「サッカー? いや別に……」

唐突に相良から聞かれて、僕は首を横に振った。



「そうかー、残念だな。……あれかな、体育ではやったけどあんまりボール触れなくて楽しくなかったっていう感じ?」


図星だった。

体育、特に球技は憂鬱な時間だった。


マラソンだけは好きだったけど。


「うん、そんな感じ」


「体育の授業って、うまい奴と運動神経のいい奴の
独壇場になったりするんだよな。


だからもともと苦手だったり嫌いだったりする奴は、ますますサッカー嫌いになる」

確かにそうだった。


僕は、足が遅いし、たまにこぼれ球が来てもそれをさばけずにすぐうまい人に取られていた。



「でも、ここのサッカー部はそうじゃないぜ」


 相良は大きく口を開けて笑った。彼の真っ白な歯が僕の目に映る。


「ここの監督は、選手一人一人のことよく見てくれる。スタープレーヤーはいないけど、
選手のよさを活かせるように考えてる。

チームも、うまい奴を引き立たせるんじゃなくてみんなで守ってみんなで攻めるって感じの雰囲気なんだ」


 へえ、と思った。


彼の話す内容は、僕のイメージしている『高校の部活』のものとは違った。

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