恋人は魔王様
くしゃり、と、キョウの手が私の頭を撫でる。

「ユリアはちっとも分かってない」

「え?」

「誰と、食事をしたって?」

子供に言い聞かせるかのように、ゆっくりキョウが問う。

「桧垣っていう、別のクラスの。あんまり知らない、人」

私は言葉に気をつけて、自然ゆっくりと返事をする。
キョウが私の瞳を覗き込んだ。

漆黒の闇を思わせる、黒い瞳がそこにある。

「いい?
俺だって恋人が他の男と食事をするくらいで、こんなに怒ったりしないし、相手を殺したりもしない。
そこまで狭い了見じゃないさ」

そ、そう。
ソレは何より。

私はわずか胸をなでおろす。

「でも、じゃあ、何故?」

キョウが、私の額に軽いキスをしてから低い声で言った。

「その桧垣って男、殺人犯なんだよ」

苦いものを吐き捨てるように、キョウが言った。



さ……殺人犯?!


沈黙に包まれた私たちの間を、悲鳴の混じった慟哭が、BGMのように地の底から冷たく這って響いていた。
< 103 / 204 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop