恋人は魔王様
「で、壊れたの?桧垣は」

私はキョウでなく、ジュノに聞く。
彼は映画で見るような英国に居る一流の執事よろしく、私たち二人のくだらない会話にはまるで興味を持たないかのように、というかそこに居ないかのように大人しく立っていた。

「ああいうのはあれだ、元が壊れてるんだから、なおったの?って聞くほうが正しいんじゃないかな。
あ、あれだよ治療の治、でなく直接の直、のほうね」

隣でキョウが混ぜっ返す。
ご丁寧にもわざわざ漢字の講釈までつけて。

「じゃあ、直ったの?」

人間を機械みたいに言うなんて!!
私は背筋にぞくぞくとした恐怖とえもいえぬ薄ら寒さを感じて、慌てて言葉を訂正した。

「まぁ、直りは致しません。
ああいう輩は壊しつくす以外に打つ手はないのですが……。
まだ、叫べるくらいですから、大丈夫ではないでしょうか?」

涼しい声で、ジュノが答えた。
私はさっきの、地を這うような地下からの喚き声を思い出し、気分が悪くなった。

私がたった1分で押しつぶされそうになった暗闇で、桧垣は放置されているのだ。
狂ってしまうのも時間の問題でしかない。

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