恋人は魔王様
ふわり、と、キョウがそんな私を抱きしめた。

駄目だ、私。
なんていうか、魔王の胸の中で安心するようでは人間失格な気がする。

とっても。

「怖いなら、気にせずずっとここに居ればいい。
ここに居れば、誰かに襲われることもない」

「ずっと、ここに?!」

私は弾かれたように顔を上げた。

「私、まだ生きてるのに?」

殺人もしていない、普通に女子高生としてなんら罪なく生きている私が、何ゆえ全てを捨てて魔界なんかで残りの、長い長い人生を謳歌しなくちゃいけないの?!

一瞬、キョウの顔に影が宿った。
それは、寂しさとか切なさとかそういった類のものなのかもしれない。

私には分からないけれど。

直後、彼はモデルのように完璧なしかし冷たい笑みを口許に浮かべていた。

「そうだな。ユリアにはユリアの生活がある。
とりあえず探偵ごっこがしたいなら、気が済むまですればいい。
俺は忙しいからずっと傍にいてやることは出来ないが、時間が空いたら手伝ってやるよ

助手には、こいつをつけよう」

目線で、ジュノを指した後、キョウが指先を空に向けた。

「ま、待ってっ」

私は慌ててそれを止める。

「ん?お別れのキスがまだだったね」

よく分からない甘言を耳元で囁き、むさぼるようなキスが落とされた。


って、いやいやいやいや。
そうではなくって!!

私は溶けそうな心と身体を無理矢理理性で繋ぎとめ、目を開く。

「そうじゃなくて」
< 111 / 204 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop