恋人は魔王様
私の疲労や眠気とは無関係に、授業はどんどん進んでいく。

昼休み笑麗奈が

「桧垣くん、今日、学校休んでるんだってー。
折角昨日のこと報告させてやろうと思ったのに」

と、頬を膨らませて拗ねたことを除けば、一日はわりかし順調に流れていった。



放課後に、
「早乙女さん☆」
と、はしゃいだ声を聞くまでは、ずっと。



私はスローモーションでもかかったようにゆっくり振り返る。
いかにもテレビドラマに出てきそうな探偵を真似て、薄汚れたスーツに身を包んだジュノがにっこり笑って立っていた。
好青年の恐ろしいところは、薄汚れたスーツをも綺麗に着こなすところにあったのね、なんて的外れなことを私の頭は考えている。

「あら、えっと」

なんて呼びかければよいか分からずに私は曖昧な笑みを浮かべた。

「フナコシだよ」

と。

ジュノは、いかにも二時間サスペンスドラマから拾ってきたとしか思えない苗字を名乗った。
もちろん、それは偽名などではないかのように、ごくごく自然な顔をして。

下校中の私は仕方なく、フナコシさんの方へと足をすすめる。
ジュノが皆の視線を集めていてることには、もう、気づかないふりをするほか対処のしようが思いつかない。

「今日、桧垣は休んでるわよ」

小声でそう伝えた。
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