恋人は魔王様
「とりあえずさ、現場を見ないと話は始まらないよねー」

と、これまたどこかで聞きかじったような台詞を吐きながら、私が折角抜け出してきた学校へ向かうべく、ジュノは軽やかに足を進める。

……それ、私も付き合わなきゃいけないの?

と、いいそうになって慌てて口を閉じる。
駄目駄目。

探偵ごっこをするっていう理由で人間界に戻してもらったんだった。

私はちらりと左手の薬指に光る黒曜石に目をやった。

まだ、一度も使っていない。

それよりも不思議なのが、わりかし大きな石であるにもかかわらず誰一人この指輪の件に触れないことだ。っていうかね、その黒曜石そのものより、ゴールドの台座とそこに散りばめられているダイヤのほうが目立っている気がしなくもないんだけど。

笑麗奈もそうだし、教師ですら。

うちの学校では華美なアクセサリーはおろか普通のアクセサリーですら禁止されている。
もちろん、朝、家を出る前に外そうとしたが、それはまるで私の皮膚の一部になったみたいにちっとも動かなかったので諦めたのだ。



ふぅ、と、私は認めたくないことを認めるほか無い状況に追い込まれていた。

つまり。
この指輪は「普通の人間」には見えないのだ。


えっと。
私、普通の人間じゃなくなったのかなー。
めそめそ。
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