恋人は魔王様
私は記憶の海でしばし遊んで、ようやく現実へと戻った。

コーヒーを飲み干したフナコシさんが不思議そうな顔で黙りこくった私を見つめていた。

それにしても、黙っていればカッコいいのに。
あ、カッコよくても悪くても、そもそも人じゃないからどうでもいいのか。

などというノリツッコミが自分の中を無意味に駆け巡っていく。

「どうした?」

「ううん、その。
桧垣には、私逢いたくないなー、と思って。
ぜひとも、フナコシさん一人で行ってきて貰えないかしら、ね?」

「ええー!!
探偵には美人な助手が一緒って相場が決まってるのに?!」

ジュノが、いやいや、フナコシさんが情けない声を上げた。

なんなんですか、その、全体的に根拠のない思い込みは!

「だって、逢いたくないんだもん」

私は必死に言ってみる。

「分かりましたよ、じゃ、どっかで美人を拾っていきます。
ユリア様は家に帰っておいてくださいね」

しゅん、と、叱られた子犬のように項垂れて、ジュノが立ち上がる。

まてまてっ!
私もうっかり慌てて立ち上がってしまった。

だって、また、私みたいに不幸に巻き込まれる人が増えるのも気の毒な話じゃない?
世界には人間界しかないと思う人が多いほうが幸せだと思うのよね。

うう。
これじゃ私、昔話に出てくる人身御供みたいじゃない……。


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