恋人は魔王様
今思えば、彼が天然というよりも、そんな駄洒落的話術に立ち止まった私のほうがずっと天然だったのかもしれない。

「今、一番叶えたいことって何?」


『人の目を見て話を聞きましょう』
なんて、守らなければ良かった。


私は彼の黒い瞳に釘付けになっていた。
まるで心の奥を見透かすような、眼差しにうっかり口を開く。


「素敵な彼氏が欲しいっ」


彼氏いない歴15年の女子高生だったら誰でも私と同じこと言うでしょ?


ごく一般的な回答だよね?


「了解♪」


ごく軽い口調でそういうと、彼は私の手の甲に軽くキスして、踵を返した。


直後、さあっと強い風が吹き、私は思わず目を閉じた。


再び目を開けた時、もうその男の姿はどこにもなくて。


『春になると変な人が増える』っていうのは本当ね、なんてぼんやり考えていた。


……まさか、天然なのは私の方?!
まさか、ねえ。

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