恋人は魔王様
「そうだそうだ。
あれだぞ、最後の話をするときは切り立った崖の上だと相場が決まってるんだ!」

ジュノが真顔でおかしなことを言い出したが、会長はそれを気に留める様子も無い。
糸が切れた操り人形のようにぼうっとしている。

「渡辺先輩との間に、何があったんですか?」

私は仕方なく話を切り出した。

「……何も」

会長は疲れた声を振り絞る。

「何もなかったんだ、本当にっ」

悲鳴に近い声を上げ、会長は頭を抱えた。
アーモンド型の瞳から、はらはらと涙が零れていく。

「それなのに、亮介がっ」

子供のように泣き喚き始めた会長に、私もジュノもなす術がない。

「あれは、俺の子じゃないのに、亮介がっ」

がたん、と、音がして隣の部屋のドアが開いた。

真っ青な顔をした桧垣亮介がそこに居た。
まるで幽霊のように、細く薄い。

昨日あったときは、こんなんじゃなかったのに。



「兄貴、何だって?」

亮介はかすれた声を絞り出す。

「だから、何度も言っただろう?
渡辺の腹の中にいたのは、俺の子じゃねぇって」

強い言葉に、亮介の、真っ青だった顔が蒼白になったのを、私は確かにこの目で見た。

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