恋人は魔王様
パチパチパチパチ

マリアの話が終わった直後。
義理立てだと言うことをまるで隠さない、軽い拍手が響いた。

目をやれば、螺旋階段の数段上でつまらなそうな顔をしたキョウが立っている。
もちろん、どこぞの民族衣装にも似た黒なのに派手な衣装を、優美に身に纏っている。

「マリア。
今すぐ彼女の手を放すか、我が国と戦争をするか。
どちらか選べ」

絶対零度を思わせる、分子の動きすら止めるような冷たい声が、凛と響いた。

「つれないわね、アナタ。
本当に女心が分かってないわ」

マリアは即座に私の手を放し、降参をあらわすかのようにその華奢な両手を挙げながらも強気の眼差しで笑って見せた。

「お前に女心を説かれる筋合いはない。
何を企んでいるにせよ、今すぐここから出て行け」

キョウは取り合うそぶりすら見せず、冷たい声で言い放ち、さっさと私を抱き寄せた。
そう、『さっさと』。
まるで、バーゲン売り場でお気に入りの服を見つけたおばさんのように、すばやく確実に。

「アナタのところのような弱小国が、本気でわが国に勝てると思ってるわけ?」

「試してみればいいだろう」

うるさい小バエを追い払うかのように、わずらわしそうに答え、キョウが左手を掲げる。

マリアが悠然と笑みを浮かべて私に言った。

「ねぇ。そのユリが本当に自分のことだと思う?
信じられないでしょう。
彼の勘違いだと思わない?
アナタ、哀れな男の妄想につき合わされている犠牲者かもしれなくてよ」


パチリ

いつもの音がして、私の身体はキョウの部屋へと移動したけれど。
マリアが放った言葉は呪いの呪文のように私の耳から離れなかった。


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