恋人は魔王様
ラテンの国
アドリア海の真珠
リアルト橋

そして、テレビで見たような運河


時折耳に入る船乗りが歌う陽気な歌は、もしや、カンツォーネ?!


……ああ、「イタリアの伊達男のように」なんてさっき感じた私のアレ、間違っては無いわよね。


かちり、かちりとパズルの一片が次々と頭の中で組み合わされ、一つの形がようやく見えてきた。


ここ、ベネチアなんじゃない?!
もしかしてっ。

慣れた手つきで、ユーロで精算をすませていたキョウは、キラキラと瞳を輝かせる私を見て、ようやくここが何処か理解したことを察したのだろう。小馬鹿にしたようにため息をつく。


絶対に、この悪魔、今、すぐ傍で羨ましそうな視線を送っているそこのイタリア女性に売りつけてやる!!


そんなことを思った瞬間、キョウが極上の笑顔を浮かべて私を見た。

「ユリア、どうしても望むならここで別れてあげてもいいけど、パスポートもお金も持たずにイタリアから日本へ戻るのって、きっととっても大変だと思うよ。
あぁ、若い頃の苦労は買ってでもしなきゃいけないんだっけ。
ここは一つ、俺が心を鬼にして売ってあげようか?」

青ざめた私に気をよくしたのか。
レストランを抜け出して、リアルト橋のほうに歩きながら

「どうしても俺のことが好きで仕方がないって言うなら、一緒に居てあげるけど、どうする?」

と、艶やかな笑顔で私に、選びようの無い選択肢をつきつけるのだった。
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