恋人は魔王様
観光客でごった返すリアルト橋の上で、カメラもないのに誰よりも様になる格好で、キョウが私を見ている。

絶対に新婚旅行中としか思えないそこのピカピカの指輪をはめた若い日本人女性のデジカメが、自分の連れ合いでなく、キョウを写しているんだもの!

その人目の引き方は尋常ではない。

それを知ってか知らずか、甘い笑みを浮かべてヤツが囁く。

「ここで愛のある飛びっきりのキスをしてくれたら、ベネチア観光に付き合ってあげる」

暗にキスしなければ、置いて帰ると言っている。

ヤバイ!

キョウはゆっくり右手を上げる。
あれがパチリと鳴った瞬間、私はイタリアで路頭に迷うことになるのだ。


考えるより前に、その手を掴み、背伸びして、彼の唇に自ら唇を重ねていた。


なんで、こんな人に見られながら求められるままディープキスとかしちゃってるんだろう、私。



ああ、もう。
サイテー。
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