恋人は魔王様
「もしかしたら、人間界で裁くと桧垣は犯人じゃないのかもしれない。
でも、その心のうちに何があったのか、私は知っておきたいと思うの」

先ほど不意に桧垣の暗い顔を思い出したとき、私はそう思ったのだ。
このまま、聞かないなんて後味悪いよ。

そりゃ、渡辺先輩は自殺したのかもしれないけれど。

「へぇ?
わざわざ他人の懺悔を聞いてあげるんだ。
牧師みたいな心がけだな」

キョウの言葉に、私はアメリカ映画で見た、懺悔に耳を傾ける牧師の姿を思い出した。
もっとも、私の日常にキリスト教なんて根付いてないので、別にそういう心がけがあって切り出したことじゃない。

もっと下世話な。
ありていに言えば、野次馬根性に近い感じなんじゃないかと思うんだけど。

うまく説明できないし、する必要もなさそうなので黙っていた。

「とにかく、今夜は遅いからもうお休み。
明日改めて調査をすればいい」

それから、ジュノに視線を移す。
その瞳からは彼が怒っているのかどうか、想像さえ出来ない。
普通の、よく見る黒い瞳の色をしていたから。

「お前も、改めてユリアに付き合ってやってくれ」

顔をあげたジュノの瞳は驚きで溢れていて、そして、ゆっくりと丁寧に頭を下げた。

「ありがとうございます、魔王様」

これほど深くて重いお礼の言葉を私は聞いたことがなかった。

キョウはそれに対して何も言わず、パチリ、とその指を鳴らす。
直後、部屋の中からジュノの姿は消えていた。
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