恋人は魔王様
「何?図鑑?」

「そうそう。
マドンナ・リリーっていうユリの花。
なんか、この花のことで知らない?」

「花のことなら生物の先生に聞けばいいんじゃないの?」

至極当然な答えは、随分と的外れだ。

「違うよ、別に花の生態知りたいわけじゃないんだし。
なんていうか、伝説とか」

「伝説、ねぇ」

「例えば、聖母マリアに関する」

ふむ、と、司書の先生はめがねをずりあげて思考を巡らせている。
しばらく想い耽った後、おもむろに口を開いた。


「受胎告知って知ってる?」

「えっと、……なんだっけ?」

随分最近その言葉を耳にしたような気もするけれど、思い出せない。

「大天使ガブリエルが聖母マリアに、あなたはキリストを妊娠しましたよって告げに来ている場面を絵にしたものなんだけどさ。
確か、良くその絵の中にユリの花が描かれているって聞いたことがあるような……。
あー、でもあれ、チューリップだって噂もあるけど」

「そっか、ありがとう!」

私は最後まで聞かずに立ち上がる。

「ちょっと、本くらい片付けていきなさいよ」

背中から浴びせられる言葉に、一瞬振り向いて手を合わせる。

「ごめん!
今回は宜しく!!」

次に図書室に行く予定なんて、卒業するまでに一度あるかどうかもわかんないけど。
ま、そこは大目に見てよね。派遣司書さん☆
< 160 / 204 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop