恋人は魔王様
とはいえ、自分の犯罪を自ら認め暴露する気にはなれない私は、つい口を噤んでしまう。

「亮介も、もう少ししたら学校にこられるほど回復するんじゃないかな」

「そう」

「とはいえ、転校させるって親は言っているけどな」

「転校」

どんな感情も持てず、私は馬鹿みたいに颯太の言葉を繰り返すほかない。
それがおかしいのか、はたまた別の感情からか。
颯太は、またしてもくすりと笑う。

「アイツさ、昔から変なんだよ。
俺が好きだと言った女には手を出さなきゃいられないタイプ」

……はい?!

「ライバル心が強いっていうのかなぁ。
とにかくさ、それが昂じてろくでもないことを渡辺に吹き込んだってのは真実らしい。
それを苦にして渡辺が落ちたのか。
ただの事故なのか。

それはもう、死んだ渡辺のみぞ知るって、感じなんだろうな」

颯太の中ではもう、片付いてしまったことなんだろうか。
まるで、昨日見たドラマの展開を説明するかのように、淡々と話し続けている。

悪意や悪気や当事者感覚なんてものが、その言葉の中に1ミリも含まれないことが、なんだか気色悪い。

昨日はあんなに塞ぎこんでいたくせに。

たった一日でこうも立ち直れるものなんだろうか。
心の中でアラームが鳴り響き、私は一歩、後ろに下がる。


はらり、と、風が悪戯にわたしのポニーテールを揺らしていった。
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