恋人は魔王様
何故か夢で見てしまった。
マドンナ・リリーの記憶。

否、それはマリアから聞いた話とそっくりだったから、マドンナ・リリーの記憶でなくて、ただ聞いた話の映像化に過ぎなかったのかもしれない。

だって、夢だもんね。

私は現代人だから、夢を見るたびにそれが「過去からのお告げ」とか、「神からのメッセージ」なんて思うこともない。
せいぜい、夢占いのサイトに昨日見た夢を入力して占うくらいのものだ。

もっとも、今はインターネットも手元にないから占おうにも占えないけど。



ああ、そうか。
切ない夢を見て。
私はその想いに流されているだけなんだ。

悪夢を見た後、汗びっしょりなのと、大差ない。
この、胸の痛みは紛い物。

多分。


私は深呼吸して、口を開いた。

「悪い夢を見たの」

「そう……。
ユリアは今日、殺されかかったんだから仕方がないな」

「あのさ、他人事のように言うの止めてくれる?
キョウが助けに来てくれないからでしょう?」

「いまどき、救急車でも呼んですぐには来てくれないって、この前ニュースで言ってたぞ」

くすり、と私は笑う。
どうして、この魔王様は人間界の情報収集に余念がないのかしらと思って。

「キョウは救急車なんかじゃないじゃん。
それとも、そんなに頻繁に呼び出しがあるの?」

「だったら妬く?」

心臓が一瞬ことりと跳ねた気がしたが、飲み込んで笑う。

「……誰がっ」
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