恋人は魔王様
そのお辞儀を目の当たりにしながら、私はなんとなく違和感を感じていた。


ああ、そうか。
ジュノはキョウにまだ逢ってないんだっけ。

だから、知らないんだ。
私たちがもう……別れたってこと。

でも、今はそっちのほうが都合がいいのかもしれない。

私は、今はもう何もついてない左手にそっと目をやると切なさを心の奥底に閉じ込めて、にこりと笑った。

「ありがとう、フナコシさん」

部屋に入ってソファに座る。
数日前、ここにキョウが座っていたなんて、嘘みたいだ。

確かに滑稽で、馬鹿馬鹿しくて、信じられなかったけど。
今ここに座っているジュノなんかより、ずっとずっと……


あれ?
私、今。
なんて思った?

ずっとずっとキョウがかっこよかったなぁなんて、回想しようとしていた自分を思いっきり戒める。

「……っていうか、僕の話聞いてる?」

心の中のノリツッコミを見破られたのか。
上の空の私を、ジュノがいぶかしむ。

「えっと、ゴメン。寝不足で」

夕べは十二分に寝ていた私だが、そのくらいの嘘は悪魔相手にでも真顔で言えるのだ。
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