恋人は魔王様
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「た、煙草吸うの?」

私は思わず話の腰を折る。
にこり、と、ジュノは笑ってポケットの中からまだそんなに数が減ってない赤のマルボロを取り出した。
ちなみに、一緒に取り出したライターはレアもののマルボロ・ジッポライターだ。シルバーのライターを飾る二つのターコイズが美しく光っている。

「演出、演出。
セブンスターでも良かったんだけど、俺、そこまでオジサンじゃないし」

……やっぱり、これ、最初から誰か撮影してるんじゃない?
いまさらそんなことを考えた私は息を吸って、そしてもう一度問う。

「でも、私。
昨日学校で駒木先生見たよ?
フツーな感じだったと思うけど」

「そりゃ学校には行くでしょう。彼の出勤時間前には妻子は無事に息を吹き返したんだから。
後遺症もないんだってー。医学の凄さか、奇跡の凄さか。
下手に休んだらどんな噂立てられるか分かったもんじゃないし。
自殺未遂のニュースは地元紙の小さな記事だけだったから、うまくいけばそんなに有名にはならずにすむかもしれないしね。
幸い、渡辺の両親は渡辺の腹の子のDNA検査も、司法解剖すら拒んだまま……あるいは、もうその時点では流産した後で、渡辺の腹に子はいなかったって話もあるが……渡辺はもう荼毘に付されたから、駒木の子供だったと立証されることもない。
だいたいさ、あいつに良心があるんだったら、渡辺が自殺した翌日、もっと動揺していても良かったんじゃないの?
自分の子を孕んだ愛人が自殺したんだぜ」

私は目を丸くする。
ジュノが悪魔のクセに人間の良心について語るのが意外だったからだ。

しかしまあ、言われてみればそうだ。
駒木先生が動じたところは一度も見たことがない。

だから、私は駒木が渡辺と愛人関係にあったというのはただの噂なんだと思おうとしてたくらいなんだから。

あ、とはいえ笑麗奈あたりに言わせると、私ほど噂に疎い女子高生も珍しいって話だからあんまり私基準で判断するのもどうかとは思うんだけど。


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