恋人は魔王様
『最期に話があるって……どういうことだよ』

亮介の言葉に、颯太も首を捻るほかない。
ま、ジュノがそういう嘘でもって亮介を呼び出したってことだ。

『……お前、家から出れるんだな』

颯太の顔に、再び壊れた笑顔が浮かぶ。

『……もう、兄さんに憧れるのは止めるんだ……』

ぐっと拳を握った亮介がかすれた声でそういった。
その顔は何日も泣きはらしたためか、元の悪くない顔が台無しになるくらいに腫れていた。

『そう』

クツクツと颯太が笑う。

『俺なんて、最初っから憧れる価値ねぇよ』

『んなことあるかよ!
ずっとなー、生まれたときからお前と比べられ続けてきた俺の気持ちなんて、兄貴に分かるはずがないっ』

悲鳴に似た、叫び声。

良く出来る兄、それに比べて不出来な弟。
一度貼られたレッテルは少々のことでは覆されない。

バレンタインデーに山ほどチョコレートを貰う兄、それを横目でうらやましがる弟。
運動会のマラソンで一位になる兄、二位を取った弟。
生徒会長に簡単になる兄、どんなに頑張っても副会長の座が精一杯の弟。

昔からずっとそうだった。

と、涙ながらに恨みがましく過去を語る亮介。

『だから、アンタが抱いた女を抱けば、俺にも何か分かるかと思って』

その、ぶっ飛んだ思考回路はさすがにジュノには理解できない。
(もちろん、話を聞いている私にも)

『んなわきゃねぇだろ』

実の兄貴にすら、その思考回路は理解してもらえなかった。
……こんなときですら。
< 186 / 204 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop