恋人は魔王様
「あの探偵が、下にマットを準備しておいてくれたせいで助かったんだ。
すげーよなー、アレ。
まるで映画のセットみたいだった」

思い出したのか、かすかに目を細めて、また、ニカっと颯太が笑った。
……うっそ……

「お陰でさ、なんか吹っ切れちゃった。
お礼言おうと思ったんだけど、逢えずじまいでさ。
めっちゃかっこいいよな、俺、憧れるよ、あの人に。
もし、早乙女百合亜がアイツに会うことがあったらお礼を言っておいてくれないかな、ね?」

私は仕方なく頷いた。
もう、逢うことなんてない、けど。

そう言うと、説明を求められても困るから。

じゃ、と、颯太が颯爽と歩いていく。

……何、これ。

意味が分からない。
世界がぐらぐらする。

止まらない眩暈に座り込もうとしたその時。
私は後ろから抱き寄せられた。

「こんなところで倒れると、浚われるよ?」

からかうような、でも、甘く低く耳を擽るその声。
忘れるはずもない。

私は反射的に後ろを向く。

「ユリア」
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