恋人は魔王様
「ユリア、可愛いね」

脳の奥まで痺れさせるような低い声が甘く響く。
しなやかな指先が、私の顎にかかる。

「二人で部屋に入ったら、
 することなんて一つしかないよね?」

なんていう、低俗な台詞も、この声で艶やかに言われると頷きたくなるから不思議だ。

「あ……そ、そうね。
 待って。すぐに用意するわ」

私は慌てて立ち上がり、部屋の隅でほこりをかぶりそうになっていたチェスセットを取り出した。

クリスタルと大理石で出来たそれは、ママの「可愛いセンサー」に引っかかったものの一つだ。チェス板は、ピンクと黒になっていて、確かに可愛い。


私はチェスをテーブルに置き、向かいの一人掛けのチェアに座り、若干呆気にとられているキョウを真正面から見る。

「二人ですることっていったら、チェス、よね?
 それとも、カードゲームが良かったかしら?」

「ルール、分かるの?」

「見よう見まね程度には」

「へぇ。
 じゃあ、何賭ける?」

キョウの眼差しは獲物を見つけた肉食獣のように鋭く光っていた。
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