恋人は魔王様
「何も賭けないっつーのっ」

駒を並べようとしていた私は手を止めて言った。

「つまらん」

キョウはやる気がないことを示すためか、頭の上で両手を汲んでソファにもたれた。
私は駒を並べながら、キョウに言う。

「どうして魔王様がここに現れたのか、教えてくれる?」

とりあえず、キョウが何者(の設定)だとしても、それを確認しておかないと私も立ち振る舞い方が分からない。



ドッキリテレビのスタッフは、撮影を忘れてしまったのだろう。



私はそう決め付けて、キョウを真正面から見据えた。

端正な顔立ち。
モデル並みのスタイルのよさ。
圧倒的な存在感。

……隣に居たほうが良かったかもしれない。

気圧された私はうっかりため息を漏らした。

黒曜石のようなキョウの瞳が冷たく輝く。
それだけで心臓を鷲掴みにされたような息苦しさを感じる。

これがトキメキというものなのか、
切なさと言った類のものなのか、
はたまた、ただ雰囲気に呑まれているだけなのか、
恋愛初心者の私には、ちっとも判別がつかない。


けれど。

キョウの瞳に映っている私は、心なしか夢見る女の子の顔になっているようでもあった。


パチリ、と、キョウが指を鳴らす。

刹那。

窓も締め切っている部屋の中に風が吹き、


先ほどの、運転手が笑顔で現れたのだ―――



< 36 / 204 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop