恋人は魔王様
私は思わず自分の指先を鳴らしてみた。

当然、何も起こらない。

私の挙動不審さには目もくれず、美形運転手はキョウの元へ跪く(ひざまずく)。

「お呼びですか?
 魔王様」

・・・・・・

私は笑麗奈と一緒に、流行りもの見たさで行ったメイド喫茶を思い出していた。

だって、『お帰りなさいませ、御主人様』にそっくりなんだもん。いや、それよりも丁寧で板についている感じすらする。

それ以外にこんな面白シチュエーション見たことないんですけど……

だから私にはこれが現実でなく、お芝居かコントにしか見えないのだ、と、気付く。


「ユリアがことのほか察しが悪くて困っているのだ」

……困っている風には微塵も見えませんが?
  むしろ、楽しんでらっしゃいますよね?


私の心の突込みを無視して話は進む。

「それはそれは。
 では、僭越ながら私のほうからご説明させていただきます」

立ち上がってくるりと私の方を向く。
その丁寧な物腰は、私に執事を連想させた。

もっとも、執事なんて私にとっては、映画と小説の中でしか見たことがない、ユニコーン並みに架空の産物なんだけど。


「魔王様には深い理由がおありで、恋人候補を探していらっしゃいました。
 が、魔界での魔王様の人気というのは絶大でして、なかなかお一人に絞ることができなかったと申しますか、まぁ、いろいろありまして」

曖昧すぎて、話が全く見えないんですけど~?

でも、とりあえず黙っておこう。
執事は話を続ける。

「それで、ほかの世界で見つけてみるのはどうだろう、ということになったんです」

なったんですって。
さらりと言われても。

「えーっと、世界には魔界と人間界以外にもいろんな世界があったりするんですか?」

私は釣られて丁寧な言葉遣いになっていた。








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