恋人は魔王様
「では、私はこれで」

用件を終えたと自覚した執事は、再び跪く。

「ご苦労」

労い(ねぎらい)の言葉を掛けて、キョウはもう一度指先を鳴らした。

当然のように風が吹いて、執事が消える。



本当に、これはマジックなのだろうか。

ひょっとして、私、妄想の世界に片足突っ込んでいたり……してないよね?
妄想癖が遺伝するなんて、聞いたことないし。



「どうして指先一つで、人を呼んだりできるの?」

はぁ、と、キョウはため息をつく。

「人でない、と言ってるだろう?」

徹底してるのね、その設定。

「じゃあ、魔?」

首をかしげながら言う。

悪戯を思いついた少年のように、キョウが笑った。

「ほかにもいろいろ、できるよ?」

パチリ、と、指が鳴る。


刹那。

まるで、舞台の中に放り込まれたかのように私はだだっぴろい草原にいた。

緑の風が頬を撫でていく。
柔らかい日差し、甘い草のにおい。

私は思わずあたりを見回す。

ここは、どこ?

馬がいて、兵士がいて。きちんと整列している。
聖職者に、女王に、もしや、王様?

ああ。
この並びって。


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