恋人は魔王様
ママはくるりと振り向いて、少女のように無邪気な笑みをこぼした。
おそらく、もう、彼女の心は劇場に飛んでいる。

「あら、殺人事件なんて毎日のように起きてるじゃない?
 ちっとも珍しくないわ。
 それに比べて、亮様なんてこの3ヶ月連続公演が終わったら、次は8月まで舞台のお仕事入ってないのよ?
 どちらが大切だと思います?では、ごきげんよう」

と、言うと今度は振り返らずに歩いていった。

「君も、大変だねぇ」

いやまぁ、刑事さんに同情されるほどのことではございませんが。



「ユリア、待ちくたびれた」

!!うっかり忘れかけていた。

私は玄関から、移動し階段を見上げる。

二階から退屈そうに『魔王様』が降りてくる。

なんでただ歩くだけで、こうも素敵に見えるのかしら。うっかりため息をつきそうになって、慌てて飲み込む。

彼の眼差しは玄関先に所在無く立っている刑事たちに注がれた。
凍りつきそうなほど冷たく。


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