恋人は魔王様
「あいつに用はない。
 追い返せ」

まただ。
また。
ここらの温度を5度下げる、冷たい声。

「分かっております。
 が、あの方のヒステリックはとても私達の手には負えません」

執事が悲鳴にも似た悲痛な訴えをあげる。

「甘いだけだろ?」

「ですが、×××国との関係を壊すわけにはいきませんので」

消え入りそうな声。
やはり固有名詞と思われる部分は、聞き取ることが出来なかった。
(じゃあ、さっき聞こえたマリア様っていうのも気のせいかしら?)

はぁ、と、キョウがこれ見よがしにため息をつき、私を見た。
自然に顎を持ち上げられる。

「ユリアが焦らすから、おあずけになった」

「ゴメンナサイ……」

何故だかうっかり謝ってしまう。

「いい子にしてろよ」

そういうと、私の額に触れるだけのキスを残して、一瞬後、彼は跡形もなく姿を消してしまった。

綺麗、さっぱりと。


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