恋人は魔王様
残されたのは、額に残る口付けの余韻と耳が痛くなるほどの静寂。

我に返ると私は、真っ暗な玄関で壁にもたれて一人佇んでいた。

時計に目をやると夜の8時過ぎている。
リビングに向かい、テレビをつけた。

薄っぺらい流行の音楽が、耳を通り過ぎていく。
何故だかこんな時にまでお腹はちゃっかり空いて、だから、私はキッチンで適当にありあわせの夕食を作って食べた。

具沢山のチャーハンと、インスタントのスープ。


……アイツは、何を食べるんだろう。


なんてうっかり考えてしまう自分にびっくりする。

凄腕のマジシャンか、
あるいは。

本当の本当に、魔界から来た王様なの?


簡単に人を殺すっていうけれど。
もしかして、既に一人殺(あや)めているの?


残された私に残っているのは、
考えてもどうにもならないとりとめのない疑問ばかり。



催眠術にかかっていたのかもしれない。
悪い夢でも見ていたのかもしれない。


そう、思ってみるのだけれど。



私の部屋のテーブルには、確かに、並べかけのチェスが置いてあった。




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