恋人は魔王様
テレビでどう伝えられているのか知らないが、うちの教室ではこんな感じで朝から噂がはびこっていた。

まぁ、お陰でキョウについて聞いてくる人は皆無だったから、それだけはいいのだけれど。


その日は朝から全校集会が開かれた。

この高校3年生の渡辺祥子さんが昨日の午後、転落死したこと。
事故死か他殺か特定されてないこと。
警察が事情聴取してきた場合は協力して欲しいということ。
マスコミに話しかけられてもノーコメントを通すこと。


そんなことを校長が淡々と語り、私たちは黙祷をささげた。


どこまでが真実か分からないような噂話でもちきりのうちに、一日が終わる。

私と笑麗奈は、生ゴミを狙う早朝のカラスのようなマスコミ集団が取り囲む学校周辺を無言で突破し、笑麗奈の自宅へと向かった。

私は、昨日あったことをざっくりまとめて笑麗奈に伝える。

「で、どこまでがジョーク?」

聞き終わった後、笑麗奈は笑顔で聞いてきた。

「私もそれを知りたいところ」

すっかり氷が解けて薄くなったオレンジジュースのグラスをストローでかき混ぜながら苦笑する。

「絶対ドッキリだと思うんだけどね。
 でも、チェスの世界に連れ込まれたところなんてすっごく生々しかったんだからっ」

言った瞬間、鼻腔を血の匂いがかすめていった気がして慌てて鼻を覆った。

うーん。と、笑麗奈が白魚のような手を私の額に当てた。

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